
「世界一周旅行なんて、ほんと羨ましい!私は世界一周どころか、インド国外にも出たことがないからパスポートさえ持ってやしないのよ。しかも、親はことある毎に結婚話をしてくるんだから・・・。うっとうしいったらありゃしない!」
ここインドでは結婚は時として仕事以上に重要なこと。しかも結婚は恋愛という一時の感情の流れの延長にあるものではなく、親が子供の幸せを願って占星術での相性や社会ステータスを見定めた上で相手を選ぶ「見合い結婚」が主流なのだ。女性の場合は10代後半から20代前半にかけて、男性の場合も20代前半から半ばにかけて結婚するのが平均だとか。もっとも、高学歴のエリート層や留学経験のある人たちが集まる都市部においては最近は恋愛結婚も増えつつあるし、平均結婚年齢も徐々に高まりつつあるようだけれども、結婚において本人たちの意思・意向以上に親のそれが重要な要素となっているなのはあまり変わりなりらしい。(そういえば、私が以前勤めていた米国系会社でも、本社オフィスのインド人女性が「相手探し」に2ヶ月休暇をとって帰省していたこともあったな。)
こんなインド社会では、新聞が「Matrimonials」という結婚相手探しの特別広告を毎週発行していて、「今年20歳の娘がいます。生年月日、生まれた時間は云々・・興味ある方は何時いつまでにご連絡ください」といった類の情報が何ページにもなって印刷されている(トップ写真参照)。特に女の子の親にとって、娘の婿探しは宗教上重要な義務ともされているため、自分の息子・娘が25歳になっても然るべき相手がいないとなると親は例外なくみなパニクるらしい。

「男性の友達はたくさんいるけれども、どうもいまひとつピンとこないし・・・だからといって、今はこれからの仕事のことで頭がいっぱいだからあまり意識して考えたくないのよね。」
「結婚は一生を賭けた大きなコミットメントだし、自分の人生以上に愛せると思える人に巡り会えた時が適齢期だと思えば焦らなくていいんじゃない? 年齢的に焦って然るべきなのはむしろ私の方なんだから(笑)。人生を誰かと共有するというのは素晴らしいことだと思うけど、独り身は独り身なりに楽しめるものよ。結婚したらしたなりの苦労はあるだろうし、要は結婚していようがなかろうが人というのは常に自分の理想の居場所を求め続けて苦しむもの。だったら、相手がいないとジタバタするよりも、相手探しは運命に任せて今という時間を楽しく生きる方がよっぽど幸せだと思うよ・・・34歳・独身なんて、インドでは慰めの言葉も見当たらないぐらい『行き遅れ組』の私が言うんだから間違いない! 」
「仕事を8年間続けて、お金を蓄えてから世界各地の友達を訪ねる旅にでるなんて、ほんと理想の人生だわ。楽しそうに話すさやかをみていたらなんか勇気づけられた。とにかく今は親に振り回されずに頑張る!」
2月から始まるドキュメンタリー制作の新しい仕事に夢と期待を抱く25歳のUさん。『結婚=幸せ』という社会が生み出した固定観念に囚われることなく、今まさに自分の意思で人生を切り開いていこうとしている。自由に生きていくには責任が伴うし、自分で選択した以上は言い訳も文句も言えないから大変ではある-そういう意味では親や社会が決めた枠に抗わずにすんなりと収まらる方がむしろ楽なんだろう-けれども、Uさんには働くインド女性のパイオニアのひとりとして自分の道を歩んでいってほしい。そう、誰かいったか忘れたけれど、「人と過去は変えられないけれども、自分と未来は変えられる」んだもの。 頑張れ、Uさん!

(写真中: ケララ州の小さなヒンズー教寺院でであった挙式)